ヌカミソ・パフューム(1)

「糠味噌臭い」という表現をご存知ですか? 糠漬けをスーパーで買うようになった現代においては、もはや死語かもしれませんが。「糠味噌臭い」は所帯じみて垢抜けない女性に対する貶し言葉です。

むかしはどこの家にも糠床があったそうです。これがまた毎日掻き回さなければいけない手のかかるものなので、お母さんの手には糠床独特のニオイが染み付いていました。「糠味噌臭い」は、家庭の主婦のイメージをネガティブに言い回した表現です。

しかし家庭の糠床が絶滅し、誰も漬け方を知らなくなってしまった現代においては、糠漬けを漬けれる女性は最高に女らしいと思いませんか?

確かに臭いこの匂い、どこか「お母さんの懐かしい匂い」とも繋がるのではないかと想像してしまいます。「家の台所の匂い」への郷愁とも結びつくかもしれません。

ところでなぜこんな話しをはじめたかというと、いまの私の手がまさに「糠味噌臭い」からです。まあこんな時代にきちんと糠漬けを漬けるなんて、えらいわね、とお思いになるでしょうが、じつは作品制作のためなのです・・・。糠味噌の匂いを抽出しようと思っています。来週12日(金)にオープニングを迎える作品のためです。

ふりかえると今の自分も一介の家庭の主婦です。「糠味噌臭い」と言われたら、ちょっと複雑かも。そうありたい気もするし、そうありたくない気もするし・・・。しかし、もともと味噌とか濁酒とか発酵食品を作るのは趣味なので、ひょっとしたら実は家庭の主婦に向いてるのかもしれません。

じつはこのプロジェクトのために、4月あたりから糠床を仕込んでいました。タッパに入っているのがそれです。これを種にして、さらに乳酸菌を繁殖させます。



糠はなんと、オランダのような僻地において、オーガニックの轢きたてフレッシュなものが手に入るので感動的です。 Ken-Ran さんのおかげです。まず糠を軽く炒ります。



塩と水と混ぜます。



キャベツを漬けると、発酵の出足が早くなります。キャベツに自然についている菌が発酵を助けるとか。いわゆるザワー・クラウトと糠漬けの匂いに共通点があるのも、どこか納得できます。



あとは毎日愛情込めて掻き回してあげるのみ。



第二次世界大戦中、多くの日本兵が脚気で倒れたそうで、それは白米ばかりの食生活だったからだとか・・・ 玄米を食べていれば、ビタミンBが補えたのに、という記事をどこかで見かけました。

ふだん私は玄米食ですが、夏場はとても痛みやすいので、どうしても白米になりがちです。そんなときにふと気づいたのですが、白いごはんを食べる時に一緒に糠漬けを食べれば、コメの外皮の部分の栄養素も摂取できているはずで、栄養素的にもバランスがいい。玄米をそのまま食べるのも健康にいいことは確かですが、こうして白いコメの部分とヌカとに分けてしまって別々に摂取した方が、保存の点では優れています。夏場はなにかと糠漬けのように酸っぱいものが欲しくなるものですし、菌が活発な夏こそ美味しい糠漬けができるもの。(冬場はうまく漬からないのです。)「白いごはんに糠漬け」はまさに高温多湿の気候が生み出した、生活の知恵なのだ・・・と、ちょっと感動しました。

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